とある彼女の話①

物語

とある彼女に出会った。
その彼女には、安心して帰る家がない。
親が幼い時に離婚し、父親と暮らしていて、親権はこの父親だ。
母親は、新しい家庭を持っていて、そこには1歳になる子供がいる。
父親は事業をしているので、それなりにお金に苦労はしない環境であるようだ。
でも、思春期の女の子と父親。普通でも険悪なムードになりがちな環境である。更に、彼女は母親が離婚前にこの父親に苦しめられていたという記憶があるから、余計に複雑になっている。
多くの父親は、思春期の女の子の気持ちなど、なかなかわからないのが当たり前。でも、離婚して自分が親権を持っている以上、わからないながらも寄り添わなければならない部分も必要だったりするのは言うまでもない。

どんなに訴えても全く理解してくれない父親。。。
自分の言い分だけ聞いていればいいと頭ごなしに言う父親。。。

結局、この二人が理解し合うのは、きっとまだまだ先のことで、今この瞬間の彼女の気持ちはどこにも行き場がない。そして、毎日苦しさだけが増していく。

彼女は父親のことが大嫌いだ。
離婚するときに、まだ幼かった彼女が、どちらと住みたいか聞かれたらしい。
彼女は幼いながらに気を遣い「どちらとも」と答えたらしい。
本当は、母親のことが大好きで、母親と答えたかったけど、言えなかったと振り返る。そんな彼女は、今でもその時のことを鮮明に覚えているらしい。そして、その時、正直に自分の気持ちを言えていたら、現在の自分が、こんなに苦しむことは無かったかもしれないと思っている。

彼女はそれまでも居場所がなかった。苦しかった。死にたかった。

しかし、高校生になり、好きな彼氏ができた。
ほんの少し彼女に居場所ができた。
生きる意味ができた。

彼氏の家に行くと温かい気持ちになれた。
このままずっと彼氏の家に居たいと思った。
でも、それは無理なこと。

ある日、彼氏の家に泊まりに行っていいことになった。
でも、その日の朝、また父親と些細なことでケンカになった。
全く何にも自分のことをわかろうとしてくれない父親に、またうんざりした。
そして、家出同然に家を飛び出した。
もう、あの家に帰ることはない!そう強く思って家を出た。

彼氏の家では、楽しく過ごすことができた。
ケンカして出てきたことを彼氏に話した。
優しい彼氏は、行くところのない彼女のことを心配し、もう一晩泊めてもいいかと自分の母親に相談した。

相談された母親は、ある程度の状況はなんとなく理解しているし、彼女がやってきたその日の異変にもなんとなく気付いている。

でも、もう一晩泊めることは許可しなかった。

彼女の気持ちも、息子の気持ちも理解できるし、彼女の親子関係も不憫に思う。
だから、本当はいつまででも居ていいよと許可してあげたいと思ったが、いつまでもそのまま面倒をみれるわけでもない現実。

そのことを息子にも彼女にも理解させなければならないと思ったし、そんな状況で我が家に居ていいわけがないと判断したからだ。

このことによって、彼女は自分の母親の方へ行くことを決めた。
母親のことは大好きだけど、母親には新しい家族が居るから、それも居づらさはあるだろう。
でもそれは、彼女の母親がしっかりとどうにかしなければならないことである。
親が子供を想っていないわけがないと思いたいが、実際この彼女の家はどうなのだろう。
彼氏の母親はそんなことを思いながら、彼女を抱き締めた。
彼女が抱えている多くの感情が痛いほどわかったからだ。
どうしてあげることもできない。
でも、どうしても辛くて仕方ない時には、一緒にお茶でもしようと伝えるのが精一杯だった。

そして、彼女は自分の母親の元へ帰って行った。

彼女の母親がしっかり彼女の気持ちを受け止めてくれることを願うばかり。。。

~つづく~